
東京で就職し、2年目を迎えた冬のある日、母が突然上京し、僕のところに押しかけてきた。
「孝雄ちゃん、しばらく母さんのこと面倒みてよ。行くところがないのよ」
キャリーバッグを引きずって、玄関に立った母は、戸惑う僕を寂しげな目で見上げた。
「また父さんと喧嘩したの?」
僕のところにやってくる時は、たいてい父と喧嘩をした時だ。専門学校に通っていた頃も、当時住んでいたマンションに突然押しかけて来て、2、3日泊まって帰っていったことがある。
「そうよ。でも、今回はもう帰らないわ。母さん、父さんとは別れることにしたの」
リビングのコタツに座らせて話を聞くと、今回の喧嘩は確かに少々尾を引きそうな内容だった。
「あの人、私に隠れて佳子と浮気してたのよ……」
コタツの下で手を握り、母は悔しそうに体を震わせ、泣き出してしまった。
佳子というのは母の妹だ。夫と死別し、2年ほど前からうちの実家に居候をしている。
「買い物から帰ってきたら風呂場から物音がするの。何かなと思ってドアを開けたら、お父さんと佳子が裸になってセックスしてたの」
泣き崩れる母を慌てて宥めた。
「孝雄ちゃん、母さんの面倒見てくれるでしょ」
「うん……ここでよかったらしばらく泊まっていきなよ」
「ご飯は毎日作ってあげるし、洗濯も母さんがしてあげる。病気をしたら看病だってしてあげられるのよ。孝雄ちゃんだって母さんがいた方が楽よ」
「こんなふうに二人で過ごすのも久しぶりだしね。僕も母さんがいてくれるなら嬉しいよ」
母がホッとしたように体を起こし、僕に笑顔を見せた。
僕が暮らす菊川のマンションは1LDKの物件で、そこそこ広めな洋間と和室がある。寝室として使っていた和室に、もう一枚古い布団が残っていたので、部屋を片付け、そこで布団を並べて母と寝ることにした。
「二人で暮らすには狭いから、プライベートな空間は限られるよ」
「平気よ。孝雄ちゃんの邪魔にならないよう、母さんも気をつけるから」
母は寝室に荷物を運ぶと、古い布団を敷くのを一緒に手伝い、敷き終えると僕の背中に抱きついて「ありがとう」と言った。
「今日から母さんが孝雄ちゃんの奥さんがわりになってあげる」
母が体を密着させると、僕は妙な違和感を押し付けられた胸に感じた。
(あれ、母さんの胸……)
母は若い頃から少しむっちりとした体型をしていてお尻は大きかったが、胸はそれほど大きくなかった。
体を離すと、さりげなく母の胸元を覗いた。
以前より確かに胸が大きくなっている気がした。着ていたブラウスの生地が大きく持ち上がっている。
僕の視線に気づいたのか、母が不思議そうに僕の顔を覗き込んだ。
「どうしたの?」
「いや、髪型変えたんだなと思って」
「ありがとう……」 そう誤魔化すと、母はとたんに嬉しそうな顔をした。
首元で綺麗に切りそろえた髪をさりげなく翳しながら、ボブヘアーを自慢してくる。
「いつ切ったの?」
「半年くらい前。短い方がいいのかなって。似合ってる?」
「うん、似合ってる。その方がいいよ」
長髪だった昔より若々しく、母はすっきりとした顔になっていた。
「ありがとう。孝雄ちゃん、優しいね」
褒め続けていると、すっかり機嫌を良くし、母は僕の胸に顔を埋めて、大きく息を吐いた。
「思い切って孝雄ちゃんのところに来て良かった……」
キッチンに戻ると、母は台所をチェックし始めた。冷蔵庫を開けて中を覗き込み、途端に顔をしかめる。
「飲み物しか入ってないじゃない。ご飯食べたの?」
「いつも外食だよ。今日はまだ食べてない。一緒に何か食べに行く?」
母がため息をついた。
「母さんが作ってあげるわよ。この近くにスーパーないの?」
「もう閉まってるよ。野菜と肉ならコンビニで少し売ってるけど」
「じゃあ、一緒にコンビニ行こうよ」
冷蔵庫を閉め、母は寝室のバッグを弄って財布を手に戻ってきた。そのまま上着を羽織り、僕の腕を引く。
一度言い出すと聞かないので、母の言うまま、コンビニの買い出しに付き合った。
野菜や惣菜、冷凍食品などを大量に買い込むと、母はうちに帰って一つずつ冷蔵庫に収納し始めた。
「こんな大きな冷蔵庫いつ買ったの?」
「最初の賞与の時だよ」
「せっかくいいの買ったのに何も入ってないんじゃもったいないわよ」
母はブツブツと文句を言いながらキッチンで料理を作り始めた。
少しずつ機嫌も戻り、テレビから流れてくる歌に合わせて、鼻歌を歌い始める。
僕は踊るようにシンクの前を行き交う母の後ろ姿を見つめていたが、たまにはと腰を上げ、母のそばに行って料理を作るのを手伝った。
母はコンビニから帰って来ると外行きの服を脱ぎ、ラフなワンピースに着替えていた。
胸元が開いたワンピースで、少し身を屈めると、レースの下着に包まれたおっぱいが丸見えになっていた。
ボリュームのある胸を覗き見ながら母の胸に再び疑念の目を向けた。
(太ったわけでもないのに、やっぱりおかしい……)
むっちりとして、そこそこ色気はある方だったが、母は胸が大きくなったことで、妙に妖艶さが増している。
(2へ続く)